受講生ブログ「思い込みを外す」
先日、ヴィッセル神戸対湘南ベルマーレの実況を担当しました。この試合は、神戸が中2日、湘南が約1週間の準備期間を経て迎えた一戦でした。
一方の湘南は、負傷者や海外移籍に伴う選手の離脱があり、メンバー構成が難しい状況。
こうした中で、実況者としては様々な展開を想定し、入念に準備を進めます。
ただ、準備の中でどうしても「思考の癖」や「思い込み」が出てくる場面があります。
中2日だから、神戸はメンバーを大きく変えてくるだろう
湘南は主力を欠いており、連携面に不安があるかもしれない
福田翔生選手にとっては海外移籍前のラストマッチ。特別な思いを持って、湘南がよりアグレッシブに来るかもしれない
もちろん、こうした予測は決して悪いことではありません。
予測を立て、準備をしておくことで、想定外の事態にも柔軟に対応できることがあります。
ただ、大切なのは、実際の展開が予測と異なったときに、いかに柔軟に切り替えられるか、という点です。
この試合では、中2日の神戸が結果的に4-0で快勝。
先発は2人のみの入れ替えで、むしろ湘南よりも積極的にボールを奪いに行く姿勢が見られました。
得点もセットプレーや攻守の切り替えから生まれ、見事な試合運びでした。
準備したことと、実際に起こることに差が生まれるのは当然のことです。
重要なのは、その“ギャップ”をどう実況で表現するか。ここに実況者の力量が問われると改めて感じました。
スコアは4-0でしたが、果たして内容も一方的なものだったのでしょうか?
ボール保持率が高い=主導権を握っている、とは言えるのでしょうか?
数字や事前の傾向だけでは見えないことが、ピッチ上では確かに起きています。
だからこそ、実況では解説者とのコミュニケーションを通じて、
「いま何が起きているのか?」「このあとどんなことが起こりそうか?」「その要因は何か?」
といった視聴者の素朴な疑問に応えていく必要があります。
その際、自分の思い込みが強すぎると、質問内容にも偏りが出てしまう。
あのとき、自分はどんな気持ちで解説者に問いかけていたのか?
その振り返りを丁寧に重ねながら、少しずつでも思い込みを外していく姿勢を持ち続けたいと思います。
能政夕介
2025年07月10日 18:01